「第4次産業革命」という言葉自体には余り馴染みが無いという向きもあるかもしれません。
しかし、人類は今から50万年ほど前、北京原人が石を砕いて握り斧などの道具を使い、火を使い始めて以来、さまざまな技術革新を経て、ついに18世紀後半にはイギリスで第1次産業革命が興りました。
そして以下で詳細に説明するように、人類は引き続いて第2次、第3次、そして今や第4次産業革命を成し遂げつつあります。
この第4次産業革命において、これを構成する中核の革新技術であるIoT×AI(人工知能)を中心に置いて、その技術革新によってどのような実質的メリットが得られるのか?また、一方でその影の部分となるデメリットや問題点をも示しながら、出来るだけ具体的な事例を挙げながら、「第4次産業革命」におけるIoT×AI(人工知能)関連産業の現状と将来の展望について述べることにしましょう。
第3次産業革命までの人類の技術発展・進歩に、その肝としてIoT(Internet of Things)やAI(人工知能)テクノロジーが加えられた、新しい技術革新を意味します。
IoTやICT(Information and Communication Technology)は、あらゆるモノがインターネットを介して繋がり、リアルタイムに情報をやりとりします。その結果、様々な情報がデータとして蓄積され、これがビッグデータを構成するようになります。
これらのビッグデータを解析するのに活躍するのがIoT×AI(人工知能)です。AI(人工知能)はこれらのデータを解析し、その中に規則性を見つけたり、機械や装置を制御したりします。
そもそも「第4次産業革命」という言葉は、ドイツが2012年から打ち出している技術戦略「インダストリー4.0」を日本語化したものだ、と言われています。
まず、「第1次産業革命」ですが、「蒸気」という新しい動力を手に入れた18世紀後半のイギリス社会は、それまでの「人力」、水車のような「水力」、家畜からの「動力」などから脱皮し、「蒸気機関」を利用して織機の織物産業、「蒸気機関車」を活用した運輸・輸送業を飛躍的に改革し、それまでとは比較にならない産業の発展をもたらしたわけですが、この変動を第1次産業革命と呼んでいます。
また、「第2次産業革命」では、人類は「電気」と「石油」の利用を可能とし、石炭による「蒸気動力」より遙かに優れたエネルギー効率源を手に入れ、産業界に大きな革命と進歩をもたらしたことは、現在も続いているこれらの恩恵に浴しているわれわれ現代人には容易に理解出来るでしょう。
さらに、第2次世界大戦中に生まれた「コンピューター」が、単に計算機の能力を超えて、最初はもっぱら米国の軍事的な利用にとどまっていたものの「インターネット」として開発されたことが、戦後民間の学術的分野における利用、活用にとどまらず、産業界でも利用、活用されるようになって、今では現代人のほどんどが何らかの形で、個人的にもインターネットと関わり、余り意識すること無く生活上インターネットの恩恵を蒙るレベルに達していることは、ご承知の通りです。
このようにして「第3次産業革命」がもたらされ、あらゆる分野における「自動化」が実現されて、現在の隆盛に至る結果となりました。
そして第4次産業革命では、第3次産業革命で出現したインターネットを介してさまざまなモノをつなげ合い、それを「AI(人工知能)」が制御するようになる、と言われています。
つまり、第3次産業革命以前までは人間が機械を調整していたのに対し、第4次産業革命では人間の代わりにIoT×AI(人工知能)が機械を自動制御することになり、その結果、AI(人工知能)関連の国内市場規模は2030年までに86兆円以上になると予測されているものの、経産省の試算によると、経営や商品企画の分野で136万人、製造・調達分野で262万人、管理部門で145万人が仕事を失うとも言われていることにも注意せねばなりません。
しかし、一方で我が国は世界でもトップを切って高齢化社会を迎えることになり、それによる労働人口減少問題の解決のために、第4次産業革命における技術革新が鍵となります。
また、IoT×AI(人工知能)の進出により事実上仕事を失うとされている人々には、逆に新たなIoT×AI(人工知能)関連市場に関わる人材として必要な職種を満たすための要員の道が拓けていますので、一方的に悲観することはありません。
IoTは「モノのインターネット」とも呼ばれるように、パソコンやサーバー以外の「モノ(電化製品や建築物、自動車など)」同士でインターネット接続を行うことによって、相互に情報をやりとりする技術を指しています。人々を取り囲むあらゆる「モノ」に情報の相互通信を可能にすることで、より豊かで快適な暮らしを実現できると考えられています。
たとえば、自動車の「自動運転」を考えてみると、ネットワークにつながった自動車は走行中の道路の混み具合、路面の状況、事故の有無、その状況などのリアルデータを自動的に収集し、それら情報データは他の自動車のドライバーとリアルタイムで共有することになり、また、その収集されたデータはIoT×AI(人工知能)によって解析され、ネットにつながる全車両にフィードバックされることになります。その結果、GPS関連産業の市場拡大も期待されます。
上に述べたように、AI(人工知能)はIoTで集められたデータを分析し、データの規則性を見つけたり、実際に機械の制御をしたりすることになります。その結果、引き続き自動運転の自動車を例にとると、IoTから入手した、3D地図、周辺車両、歩行者、信号、渋滞、事故、交通規制、路面などのデータ情報をさらにAI(人工知能)が分析することで、自動運転の精度を向上させ、現実的な自動運転テクノロジーを実現させることが期待されています。
コンピューターの計算能力の向上と、情報テクノロジーの進化、発展の結果、IoT×AI(人工知能)の学習・データ解析の成果は幾何級数的に向上し、いわゆる2045年のシンギュラリティに到達以後の進化については、正直なところ、現状では、その到達点の状況を具体的に想像することは困難であると言えます。
ところが、このコンピュータの計算能力については、ごく最近、米国Googleの研究チームが開発した、いわゆる量子コンピューターによって現存のスーパーコンピュータ-(スパコン)では1万年掛かる計算を3分20秒で解いた、と報じられています。
もし、こうした超高性能計算能力を有する量子コンピューターが、従来のコンピューターに代わって、AI(人工知能)の学習・データ解析に適用されるとすれば、シンギュラリティの到達点が大幅に前倒しされるかもしれません。
AI(人工知能)が、優れた性能を発揮するためには、IoTで収集される「データ」が切り札となり、このデータが乏しければ、当然有効な分析はできなくなります。いわゆる「ビッグデータ」と呼ばれる大量のデータは、そのために絶対に欠かせないものです。
いち例を挙げれば、医療分野において、多数の患者のカルテから大量のデータを集めることが出来れば、そのビッグデータからAI(人工知能)が、画像認識技術によって、人間の目では見分けにくい患部の病巣を見つけ出したり、大量のカルテからのビッグデータを利用して独自に病気を判断したり、伝染病の拡大状況の把握などが可能となるでしょう。
このように、大きな経済的メリットを招来することになる「ビッグデータ」ですが、この「ビッグデータ」の取り扱いには慎重を要します。企業にとっては大きな稔りをもたらすであろう金の卵ですが、そもそも「ビッグデータ」の本質からすれば、これを一企業が独占するのでは無く、広く「共有」することによって、その価値はさらに高まり、有効活用できるものとなります。
しかし、一方で、「ビッグデータ」は個々人のデータの集積ですから、個人のプライバシーがどこまで守られ、尊重されるか?ということも大きな問題となります。この辺りの倫理的ならびに社会通念上からのコンセンサスの確立が事前に為されなければならないでしょう。
また、企業としては、上記の要件を整えた上で、どこまで獲得したビッグデータを専用できるか?という点も大きな課題となります。なんと言っても集積したビッグデータには計り知れない資産価値があり、これを有効活用してこそ、企業は大きな利益を上げることが出来るわけですから…。
こうして、今後発展、展開して行く第4次産業革命には大きなインパクトがあります。それは人類がさらに発展、進化を続けて行くためには、これを円滑に運用して進展させて行く以外に道は無いと言っても過言ではないからです。
特に日本では、
まえがき
①第4次産業革命とは何か?
②第3次産業革命までとの違い
③第4次産業革命の要素
(1)IOT(モノのネットワーク)
(2)AI(人工知能)
④IoT×AI(人工知能)の学習・データ解析
⑤ビッグデータの重要性
⑥ビッグデータ取り扱いの課題
⑦第4次産業革命のインパクト
⑧IoT×AI(人工知能)が活躍する具体的分野の詳細
(1)各分野ごとの詳細
(2)3大分野が各フェーズを経て、得られる成果
a.生産性分野
b.健康・医療・介護分野
c.空間移動分野
あとがき